昭和56年03月02日 衆議院 予算委員会第四分科会

[387]
日本共産党 瀬崎博義
まず、公正取引委員会に伺います。

一昨日、公取はようやく新聞業の取引実態調査の結果を発表されたわけであります。この中で、特に注文部数を超えて販売店に本社から送られてくる部数、いわゆる押し紙でありますが、その率、それから拡張販売用の景品いわゆる拡材、それから無代紙の状況、数年間の傾向がどうなっているか、ごく簡単に手短におっしゃっていただきたいと思います。

[388]
説明員(公正取引委員会事務局取引部取引課長) 河村穰
まず、今回の新聞販売店を対象にいたしました実態調査の結果によりますと、先生最初におっしゃいました押し紙でございますが、この調査では残紙無代紙ということで出しておりますが、これをトータルいたしましたものが一応押し紙と見られる、そういうことでございまして、その押し紙率は平均しまして3.4%という数字になっております。

それから、拡材、無代紙の提供の状況でございますが、一般的な実態といたしまして、そういう拡材、無代紙の提供による新聞の購読の勧誘という行為が日常茶飯事になっていると答えた販売店が約60%に達する、そういった傾向がここ4、5年間増加する傾向にあるというふうな回答をした販売店が65%強に達しておる、そういう状況でございまして、全般的に申しまして、かなりこういった拡材、無代紙の提供行為が行われておるという実態でございました。

[389]
日本共産党 瀬崎博義
千葉県では、新聞販売の自主規制機関であります新聞公正取引協議会千葉県支部が中心になって、一般紙全社の販売店会が連名で、無代紙、大型拡材提供をやめる申し合わせをして、そのチラシを出した、これが昨年の11月でありました。

ところが、その直後の12月3日から、読売新聞社の拡張団がバスでこの千葉県下に乗り込んで、従来の拡材には見られなかった高級エアポット、時価約6000円を使って拡販に乗り出した。これがその使ったエアポットです。公取は承知しているはずです。

昨年の11月11日には参議院の商工委員会で、通産大臣も同席のもと市川参議院議員がディジタル時計とか味の素セット、タオルセット等を示しました。大体あのときは数100円から2000円どまりの景品だった。これは6000円。また一段階エスカレートした。これに対抗しようと思うと次は1万円台になってくる。こういう状況であります。そこで、販売店主の方々は私と一緒に12月6日公取に行って、この事実――このときにはこれを持って勧誘に入った家の住所、名前、またはその拡張団のバスの写真というものを添えて公取に是正を要求したのであります。公取としては、私どもの指摘した事実を確認しましたか。

[390]
説明員(公正取引委員会事務局取引部取引課長) 河村穰
お申し入れの案件につきましては、新聞公正取引協議会の方に通告をいたしまして、自主的に規制するということで定めております規約あるいはそれに基づく規則に基づきまして処理するように通告いたしました。

[391]
日本共産党 瀬崎博義
ちゃんと連絡がとれるように、事実が確かめられるように、このエアポットを持ち込んだ家の住所、名前まで言ってあったでしょう。その事実を確認したのかどうか。それを一言答えなさい。

[392]
説明員(公正取引委員会事務局取引部取引課長) 河村穰
御指摘のような事実があったということでございます。

[393]
日本共産党 瀬崎博義
読売の発行本社に対してはどういう措置をとりましたか。

[394]
説明員(公正取引委員会事務局取引部取引課長) 河村穰
即刻そういった行為をやめるように指導いたしました。

[395]
日本共産党 瀬崎博義
それは読売の本社に対してやったということですね。

[396]
説明員(公正取引委員会事務局取引部取引課長) 河村穰
そのとおりでございます。

[397]
日本共産党 瀬崎博義
事実これはとまったのです。先ほどあなたが紹介された実態調査の結果についても、販売店からは、本社派遣の拡張団による違法、強引な拡張は目に余るものがある、これらの行為を中止させ、販売を正常化するため、公取において、業界特に発行本社に対し強力な指導または取り締まりをしてほしい、こういう強い意見が出ておることをあなた方もお認めになっているわけです。やれば効果があることは、この千葉県下の例で1つ示されているのであります。

そこで、あの席上で公取の方から正式に独禁法並びに景表法違反として申告してほしい。販売店側の方々もそのつもりでいらっしゃったのでありますが、実際には正式の申告は出ていないわけです。この読売新聞の違法な、強引な拡販状況を報告に来られた販売店側の発行本社、これは本来読売とは競争相手になる会社なのです。ところが、その発行本社がしばらく申告を見合わすように、こういう説得といいましょうか圧力をかけたと見られる節もあるのです。これは私の感触であります。こうなってまいりますと、報道の自由は民主主義のシンボルであり、断じて守られねばならぬわけでありますし、その報道の自由、民主主義の守護神をもって任ずる新聞発行本社が、一方で不公正な手段を使っての激しい販売合戦を演じる。力の弱い販売店が、何とか法によってこれを是正してもらおう。ところが、そういう営業を守ろうとする自由に対していろいろな圧力がかかる。これでは、片方で民主主義を守ると言いながら片方で民主主義を抑えるのですから矛盾もはなはだしい。大臣、そういうふうにお感じになりませんか。

[398]
通商産業大臣 田中六助
私も実は新聞記者の出身でございまして、そういう点まことに恥ずかしいことだと思いますし、そういう販売合戦は悪循環をしてますます世の中を乱すような糧を与えておるようなもので、本当は社会の木鐸としての活動をしなければならない新聞の精神に大いにもとると思います。

[399]
日本共産党 瀬崎博義
さて、公取のこの実態調査についてでありますが、当初から、販売店の方から実態を正しく書き込んでいいのだろうか、こういう問い合わせとか、発行本社の方からこういうふうに書いておけというふうな指導が来ている、こういう問い合わせというのが来ておったわけです。公取の努力は多としながらも、われわれの心配したとおり、出ておる数字は過小評価になっておるのではないかと思うのです。

たとえば2年前に日販協が集計した調査でも押し紙率は8.3%、約300万部、こう出しているのです。先ほど御報告になったように、公取の結果では3.4%なのです。今回の調査結果が正確な実態を反映したものと見ていらっしゃるのか、これは大分少な目であると見ていらっしゃるのか、改めていかがでしょうか。

[400]
説明員(公正取引委員会事務局取引部取引課長) 河村穰
今回の調査結果は、販売店から出されました数値をそのまま集計した結果でございます。先生御指摘になりましたように、アンケート調査票を発送した直後に、販売店の調査票の記入に対して発行本社の方からいろいろ指導をしているというふうな情報も幾つか入っております。

それから販売店サイドにおきましても、残紙あるいは無代紙、そういった数値について控え目な数字を出すというふうな事実上の心理的なものが働いておるというふうな推測もあるわけでございまして、この数値が現実の姿をそのままあらわしておるかどうかという点につきましては私どもも若干の疑問を持っておる、そういうことでございます。

[401]
日本共産党 瀬崎博義
主査の了解を得て、この写真を大臣に見ていただきたいと思います。――いまお渡し申し上げましたこの写真は、大阪の豊中市螢ケ池にあります樋口新聞店、ここで発生をいたします1日分の残紙の写真なのであります。ビニール袋に包まれたままの姿がくっきり写っているでしょう。この新聞は写真でもはっきりわかりますように日経新聞であります。

この新聞店は毎日新聞約8000部と日経新聞約4800部を扱っているのでありますが、毎日の方の残紙は約400部でありまして残紙率5%、公取の調査よりは多い率ではありますけれども、もちろん業界の常識から見ればこれはきわめて少ない方に属します。日経の方は4800部で、うち1500部が残紙でありますから、残紙率は30%を優に超えるのであります。小さな販売店の扱い総部数ぐらいに匹敵するのですね。

この店の御主人は、本当に解決に努力してもらえるのなら私も勇気を出して事実を報告したい、こうおっしゃって写真を撮ることを許されたわけであります。そして、自分が陰に隠れておったのでは真実味が少ない、証人として写真に入ってもよいとそこに入られたわけであります。なぜ公取がこういう実態をつかめないのか、私は不思議なのですね。公取自身はどうお考えですか。

[402]
説明員(公正取引委員会事務局取引部取引課長) 河村穰
今回の調査は全国的、一般的な調査ということで、販売店を対象にした調査を行ったわけでございますが、この調査結果によりまして押し紙といった行為もかなり行われておるというふうにうかがわれますので、こういった点につきましては引き続きまして新聞発行本社、全国の新聞発行社でございますが、それを対象にいたしまして、こういった実態あるいはその背景をなしておると見られる新聞販売店との間の取引契約、そういったものをあわせまして調査を続行する、そういう予定でございます。

[403]
日本共産党 瀬崎博義
ですから、ぜひこの豊中の樋口販売店にも調査に行ってもらいたいと思います。

大体公取に従来余り本当のことを言われないのは、言ってもきちっと処置してくれない、残るのは発行本社の圧力を後で受けるだけ、こうなるからなんですよ。やる以上はきちっとやってもらいたい。

では、この莫大な残紙がどうなるのか。いまお渡ししましたのに伝票の写しがありますね。これは新聞残紙商ウエダというれっきとした企業の残紙回収伝票であります。こういう新聞残紙商という独立した企業が存在するような今日になっているのですね。

これは1週間に2回回収であります。つまり3日ないし4日に1回です。その1回分の伝票、何とほとんどが日経でありますが、残紙470キログラムと記録されているでしょう。これは2月28日ですから直近のものであります。ですから、ざっと1週間で1トンに達する。1月で4トンですよ、トラック1台分。これがたった1つの店で起こっているわけです。

全国に何千、何万と販売店があるのでしょう。恐るべきことだと思いますね。このお店はこれで月に7、80万円の損失になっているとおっしゃっています。

大臣にここで伺いたいのでありますが、通産省の方は省資源・再資源化政策推進費として56年度予算に3億300万円組んでいらっしゃる。御丁寧にその中に古紙対策4200万円をちゃんと組んでいらっしゃるのですね。一体何のためにこんなものを組んでいるのだろう、片一方でこういうものをほっておいて。矛盾を感じます。省エネルギー対策費として2億3000万円組んでいらっしゃる。しかもこれは室を課に昇格させていらっしゃる。

貴重な森林資源を伐採し、莫大なエネルギーと人手をかけてパルプにし、紙にし、そして印刷をし、運搬をして、全く読者の目に触れないまま、またこの残紙回収商によって製紙工場に持っていかれる。ここの御主人がおっしゃいました。これだけ省エネルギー、省資源の叫ばれている中に、政治がこんな大きな浪費を許していていいのだろうかと。本当にそうだと思いますよ。力の弱い庶民が、新聞社の圧力がかかるかもしれない、しかしあえて勇気を出してその事実を訴えていらっしゃるのです。これはもうまさに大臣の所管事項なのです。新聞発行本社のこの大きな浪費をこのまま放置してよいとお考えですか。

[404]
通商産業大臣 田中六助
いいとは思っておりませんけれども、公取関係の人数も少なくて微に入り細にわたっての調査ができないのじゃないかと思いますけれども、販売店と新聞本社との関係は公取の所管事項でございますし、この究明をさらに続けていただきたいと思います。

それから、古紙とかそういうものの対策はそういう新聞関係とは別に、本当にそういうパルプ関係が困っておるのが事実でございますし、だからといってそういうような対策を無視できませんし、そういう点は総合的に始終反省も加えて検討してまいりたいと思います。

[405]
日本共産党 瀬崎博義
最も有効なこの際の省資源、省エネルギー対策は、まさにこういう全く使われないむだ紙をつくらないことですね。それにこしたことはありませんよ。そのために何億という予算を組んでいるのですから有効に使っていただきたいと思います。

こうした押し紙とか拡材が新聞のコスト高、値上げの一要因になっていること、力の弱い販売店の経営を圧迫していること、新聞の発行、制作、運搬、販売に携わっている労働者の労働条件にしわ寄せされていることは紛れもない事実なのですね。こんなひどいことがまかり通るのは、結局発行本社の力が余りにも強過ぎる、販売店の力が余りにも小さ過ぎる、ここに起因するのです。ほっておけば必ずこういうことが起こるのです。押し紙を断わりますとすぐ店舗の改廃のおどしがかかってくる。さらに抵抗を続けると、そういう店舗に対しては紙止めというのまで起こってくるのです。専門用語であります。これはあらかじめ他の店に配達態勢をとらせておいて、そしてその問題の店に対する新聞の発送をある日突如としてとめる手段なのですね。こんなことまで発行本社はやるわけなのですね。



[409]
日本共産党 瀬崎博義
ぜひ一度大臣も販売店の代表の方々といつか時間をとってひざを交えて懇談をする等、お考えいただいたら結構かと思うのです。

いみじくもいま大臣はABC協会に指導したいとおっしゃいましたね。確かにこれは問題なんです。押し紙がふえている原因は、各社の広告収入が押し紙分を含む部数によって決められている、ここから来るのですね。

新聞協会の調査によりますと、新聞業界の総収入に占める広告収入と販売収入の割合を見ますと、昭和52年の上期で販売収入43.3%、広告収入44.7%、これが去年の上期になりますと、販売収入40.7%、広告収入46.3%とますます広告収入にウエートがかかっている傾向がわかるのですね。

この広告収入の算定基礎になるのが販売部数。この販売部数は日本ABC協会という公益法人発表のものが使われるわけなんです。この協会にいま公益法人の認可を与えていらっしゃるのですが、一体どこが公益性なのか、簡単に御説明いただきたいと思います。

[410]
政府委員(通商産業大臣官房審議官) 神谷和男
社団法人でございますので、一定の資格、いわゆる構成員となるための資格は限定されておりますが、基本的にその目的とするところは、広告の媒体となる新聞等の部数等を公正に調査確認するというところにその目的がございまして、それにより広告及び宣伝の合理化を図り、もって国民の文化的生活の向上に資することを目的とする、この目的をもって公益性を認定し、公益法人として認可をしておるところでございます。

[411]
日本共産党 瀬崎博義
一応通産省が認可した公益法人の発表する数字だというのでこれが一定の権威を持ってくるわけなんですよ。だからそういう点での通産省のお墨つきが出ているということがきわめて重大なんですね。

これは大臣、やはりその道の御出身だけに指摘は当たっていると思うのです。私どもも直接ABC協会を調べに行った――調べるといいますか、いろいろ事情を聞きに行きました。あそこには公査員という方がいらっしゃるのですね。新聞の販売部数を公正に調査する意味だと思うのですが、公査員というのがいらっしゃいます。

公査員というのはたったの12人なんです。2人1組で協会に加盟する新聞71紙と雑誌53誌について立入調査をしているわけです。新聞については在京本社は14紙だけ、あとの57紙は日本全国に散っているので、6組くらいのチームではとてもじゃないが全国の新聞社を入念に調査することは初めから不可能である。ましてや販売店へ立入調査するなどということはとうていできない。1紙につき8ないし10店舗の販売店を選んでやっているが、短時間店頭で店主から聞き取りをやるくらいである。

大体同協会の予算を見ましても、3億円の予算があるのですが、公査費というのはたったの1000万円なんです。したがって、予算や人員の関係で実売部数まで考査することはとてもできない。

部数レポートはあくまで押し紙などのない販売正常化の状態を前提に発行本社各社からの報告部数を信頼して、それを発表しているにすぎない、こういうことなんですね。だから実売部数というのは全くこれはうそ偽りになってくるのですよ。こういうものが基本で広告収入が決まるから、各社は押し紙でも何でもいいから、要は発行部数をふやせ、こういうことになってきますね。

そういう点ではひとつ公益法人として認可される以上、必要以上の干渉はする必要はないと思いますが、しかしやはり国民との関係で一定のABCに責任を果たしてもらうべき分野についてはしかるべき通産省の指導があってもいいのではないかと思うのですね。先ほどの大臣の御答弁を少し具体化していただきたいと思うのです。

[412]
政府委員(通商産業大臣官房審議官) 神谷和男
御指摘のように広告関係からこの数字が収集され、取りまとめられておるわけでございますので、御指摘のような意識が出てくるということを私も否定できないと思います。しかし他方、御承知のように公益法人とはいいながら、一定の組織、一定の財政のもとで行いますので、ある程度の限界というものが出てくる。できるだけ小さな組織、小さな予算でも真実に近いものを求めていきたいというつもりで公査というようなこともやっておるのだろうと思いますけれども、やはりそこには到達し得る限界というものもあろうかと思います。

われわれといたしまして承知しておるところでは、やはり販売店と新聞であれば新聞本社との契約に基づいての部数というものを一応原則としておりますし、その契約の中のどの部分が不公正取引に該当するようなものによって構成されておるかどうかという点までこの社団法人に全部解明させるということは非常にむずかしいかと思います。しかし、御指摘のようにせっかく法人も公査ということをやっておるわけでございますから、予算なり人員の許す範囲内で一生懸命やるよう指導してまいりたいと思います。