昭和57年04月06日 衆議院 社会労働委員会

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公明党 草川昭三
そこで、きょうは、その5人から29人までの一番零細な事業者の方々の例を少し申し上げておきたいのですが、たくさんの零細企業があるわけですけれども、その中でも新聞を配達してみえる労働者の問題というのを取り上げてみたいと思うのです。これは、使用者側は新聞販売店ということになります。そしてラインとしては新聞を発行する発行本社、日本で言うところの一流の各新聞社ということになるわけであります。

きょうは公正取引委員会にも来ていただいておるわけでございますが、私ども、新聞は毎朝自宅で見るわけであります。布団の中で新聞が手に入るというのは日本だけで、サービスが非常にいいわけでありますから、これは感謝をしなければなりません。日本の新聞というのは、情報が非常にりっぱでありますし、過度というぐらいに情報が多いわけです。社説等も、われわれが尊敬をするりっぱな社説が書いてあるわけですが、問題は、その販売ルートということになりますと、恐ろしく、もう誇りもくそも何もなく、かなりひどい販売合戦がやられておるわけであります。いわゆるなべかま合戦、あるいはトラブルの非常に多い販売軍団と称する特殊なオルグというのですか販売部隊が、流通機構の中でかなり露骨なことをしておるというので問題があるわけでありますが、結局それのしわが販売店に寄せられてくる。同時に、その販売店で働くところの従業員に劣悪な労働条件を強いておるのではないだろうか。だから、販売店労働者の実情は労働省でカバーをする以外にないと私は思うのです。それはもう少し労働省としても実態を調べていただいて対応を立てていただきたいという趣旨でいまから申し上げるわけでございます。

まず公正取引委員会にお伺いをしますけれども、公取は今日まで、新聞業界の不公正な取引の是正あるいは販売、流通の中で景品表示法違反での排除命令等もたくさん出しておるわけでございますが、過去どのような対応を立ててきておるのか、まずお伺いしたいと思います。

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説明員(公正取引委員会事務局取引部取引課長) 植木邦之
お答えいたします。

公正取引委員会は、先生がおっしゃいますように、新聞の発行本社が販売店に新聞を流しますことにつきまして非常に不公正な取引方法があるということでございまして、過去不公正な取引方法ということで、たとえば押し紙というものを指定しておりますし、あるいは景品表示法に基づきまして拡材を供与するということを不当なことであるとして禁止しているわけでございます。

それで、先生御指摘のように、こういうような行為がなかなか後を絶たないということがございますので、私どもといたしましては、一昨年から販売店さんにつきまして調査を行いまして、これは4460の販売店に調査票を送ったわけでございますが、そのうちの1391、約31%でございますが、この回答がございました。

それによりますと、拡材というのは日常茶飯事に行われているというような回答もございますし、それから押し紙につきましても、販売店の注文どおりに新聞が送付されてくるというのは68%ほどございますが、本社が決定して、注文した以上の部数を送ってくるというようなのが31%ほどもございます。さらに、残紙、注文部数以上の紙が残るというのもかなりございましたわけで、それで、私どもとしましては、昨年の2月に発行本社を呼びまして、このような事態は非常に嘆かわしいことであるので抜本的な改善策をとってほしいということを申し入れた次第でございます。

それで発行本社は、私どもの申し入れもあったということでございまして、昨年の中ごろから新聞の部数増減管理センターというのをつくって、そのように新聞の部数がなぜふえたか、なぜ減ったか、ふえた場合にはこれは違反行為でふえたのじゃないのかというようなことを調べて、不当行為を是正しようというようなことを行い始められまして、現在68支部があるわけでございますが、その中の63につきまして増減管理センターというのが一応できておりまして、現在動き出しましたのが50くらいでございます。

私どもは、この発行本社さんの動きで一体どういうことになるのか、不当行為が是正されるかどうかということを注目しているわけでございますが、私どもとしましても、こういう動きを促進するという趣旨で、たとえば具体的な違反行為がありましたら警告などを行うという措置をとることにしておりますし、そのように今後もいたしていきたいと思っている次第でございます。



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公明党 草川昭三
いま文部省と通産省の方のお話を聞き、また過去の国会でのいろいろな質疑なんかを聞いておりますと、どっちにしても私がこれから指摘をしようとすることを強く業界に反映できるのはやはり公取しかなくなってくるわけですよ。個別の労働条件の問題については基準局からまたやっていただくわけですけれども、また、公取も1つの事件が発生をしないと縁がないわけでありますから、私、これは非常に盲点の問題ではないか、こう思うのです。

じゃ一体なぜ新聞販売店がこのような過当競争をしてなべかまのような――なべかま実際持っておりませんね。いまはデジタル時計だとか毛布だとかかなり高額な添付なんかをしてトラブルが起きているわけでありますけれども、乱売合戦という意味で俗称なべかまという言葉を使うわけでありますけれども、非常に問題があるわけです。

そこでそれをずっと追及をしていきますと、やはりABC協会というものが出てくるわけです。これはいわゆる広告料金を決める場合に発行部数がどのようになっているのかという一種の統計をとる団体があるわけでございますけれども、ABCレポートというものとのかかわり合いが、実は新聞の押し紙がたくさん出てくる。とにかくたくさん印刷をすることによって、その量に応じて広告料というものは決まるわけですから、勢い売れても売れなくてもある一定のものは発行する。そしてとにかく押し売りというのですか、押し紙というものが出てくる。

そこで販売店は泣く泣く押し紙を承知の上店を経営する。残った分だけが残紙ということになりますが、残紙の負担分がえらくて販売店が倒産をするという例がある。

消化ができない、能力のない販売店に対しては、親会社の方が新しい販売店を近接地域に準備をする。そこである日突然その販売店は契約解除になり、新しい販売店に経営が移る。これがこわいものですから、販売店はなかなか正直なデータを公取の調査にも出していないという問題も一方ではここで出てくるわけでございます。

それがいま68%の押し紙の数字であり、あるいは本社からは注文以上のものが出るという31%になる。これを合わせた方がいいのかどうか、いろいろな意見がありますけれども、とにかく9割以上の方々は、率直なことを申し上げて、実際読者の方から集金をしてくる紙以上のものを店頭に何らかの形で引き受けておるということを言わざるを得ないと私は思うのです。これが堂々と親会社に対して文句が言えないというのは、親会社の方が一方的な契約の力を持っておりますから、能力なしと断定をするならば新しい店を選ぶという力を持っておりますから、これは公取の方にもこの点についての意見を聞かなければいけないところでありますけれども、非常に問題があるわけであります。

こういうABCレポートというのは非常に問題だと私は思うのですが、ABCレポートというものに対して公取なり通産省の商務・サービス産業室というものは影響力を持つのかどうか、2つの省からお伺いしたいと思います。

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説明員(公正取引委員会事務局取引部取引課長) 植木邦之
お尋ねの点でございますが、私どもとしましては、ABCに載る部数でございますね、これがどうなるかということにつきましては一切タッチしておりません。

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説明員(通商産業省産業政策局商務・サービス産業室長) 江崎格
ABC協会、この団体の性格でございますけれども、これは広告の媒体であります新聞ですとか雑誌というものの正確な部数を調査いたしまして、これを公表することによって広告とか宣伝料の合理化に役立てようという団体でございまして、この団体は私どもが所管しております。

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公明党 草川昭三
そうすると、これは通産で所管をしておるというならば、通産の役割りはここだと私は思うのですね。実はABCレポートによって広告料金が決まるわけですから、ここの部数が正確であれば問題がないわけですよ。

しかし、ここのABCレポートというもの、これは社団法人としての公益性というのが一応あるわけでありますから、正しい実態を評価することが大切だと思うのですが、たまたまABCレポートというものが去年の8月からでございますか、全国の47都市において口座別、すなわち店別、銘柄別の部数報告を行うというような指導をしておるようであります。これは一見非常に明らかなようですけれども、販売店にしてみれば、手の内をお互いに明らかにすることになりますから、これはもろ刃のやいばというのですか、いい面で言うならば確かに積極的な是正にはなりますけれども、逆に言うならば強者の論理で弱いところをつぶすとか、あるいは弱い力があるならばほかの方法でやるとか、片一方では拡張の軍団と言われる拡張軍団が依然として残っているわけです。この拡張軍団というのは、増減センターをつくったって、いまでもある地域においては、トラックが行く、そしてそのトラックの上には山のようにいろいろな添付する商品を積んでいく。そしてその後に数台の軍団、オルガナイザーというのがいるわけですよ。これが弱い地区へ一斉に行きますと、1日で200部、300部というのを落として、その軍団を派遣した特定の会社の本社の新聞というのが半年とか1年契約でやられる、こういうわけでありますから、その軍団が押し寄せたところの店主というのはもうつぶれてしまうわけですよ。だからそこで働く新聞配達の従業員にしわが寄るという理屈になるわけでありますけれども、このABCレポートのあり方について通産省はいま一度点検をし直してもらいたい。

たとえば東京中日という新聞がありますけれども、ここは全く正直な数を、お客さんからお金をいただく部数だけを報告した、こういうわけですね。そうしたらこのABC協会は、いや君のところは、逆に言うならばもっとたくさん売れておるにもかかわらず低い数字を報告したというので、認証保留という制裁をしておるわけです。認証しないわけですよ。君のところは神奈川県では何部売れておるということを協会が認証しない。ということになりますと、広告主との間でいろいろなトラブルがあるという、これは逆な現象なんですね。多過ぎてもいけない、少な過ぎてもいけないわけです。ここの場合には正直なことを言ったがゆえに認証が保留をされておるという1つの例であるわけです。

ABCレポート、社団法人としての公益性が議論をされておるわけでありますけれども、このレポートは一体どうなっていくのか。大変な権限を持つ協会ということになるのですが、通産省は今後このABCに対する対応をどのように考えられますか、お伺いしたいと思います。

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説明員(通商産業省産業政策局商務・サービス産業室長) 江崎格
このレポートのあり方につきまして、実は昨年5月でございますが、発表されております数字の中に、これは各家庭に配達された新聞の部数の合計であるというような印象を与えるという御指摘が当時ございまして、その後私どもABC協会を指導いたしまして、これは発行本社が販売店に売り渡した部数の統計であるということをむしろレポートに明記するようにという指導をいたしました。

実は先生御指摘のように販売店から各家庭に配達されるものの合計がとれれば一番いいわけでございますが、これは全国に非常にたくさんございます販売店の集計が事実上非常にむずかしいということで、むしろ誤解を与えないようなことを明記をするということでレポートの数字を受け取っていただくというふうに指導したところでございます。

今後も調査の仕方その他につきまして、このレポートが発行本社の競争をあおることがないようにわれわれとしても十分指導してまいりたいと考えております。

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公明党 草川昭三
簡単にこの協会の動きを見ることなく、事の非常に深いレポートを発行することになるわけですから、ぜひ慎重な対応をしていただきたいと思います。

これは前に聞けばよかったかもわかりませんけれども、なぜこのレポートがこわいのかということは、結局いまの新聞社の収入の中で新聞発行の収益、売り上げと広告収入との割合のバランスが崩れたからこそ問題があると思うのです。

これは公取にお伺いしますが、現在の平均的な数字でいいですから、広告収入と販売収入との比率はどのようになっておりますか。

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説明員(公正取引委員会事務局取引部取引課長) 植木邦之
御指摘の点でございますけれども、これは新聞協会さんがお調べになって発表されている資料でございますが、まず55年のところまで推定という数字が出ております。これによりますと、新聞の販売収入が48.7%、広告収入が40.9%、その他の収入、これは出版とか事業の収入でございますが、それが10.4%ということでございます。

この数字は若干年によって変動するようでございますが、それほど大きな変動はないように思われます。たとえばその前年の54年について見ますと、販売収入が47.9%、広告収入が41.7%、それからその他の収入が10.4%、これは同じでございます。そのようになっております。

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公明党 草川昭三
いずれにいたしましても、広告収入が新聞社の収入に非常に大きいだけに、このABCレポートというものが重大な役割りを果たすことになるわけでありますし、やはりいまのままでいきますと大きいところが勝つわけですよ。

いま宇宙時代になりまして、やがて放送衛星が打ち上がる、あるいはテレビも文字多重時代になりました。文字多重時代になりますと、自分の好きなチャンネルの中から任意に株式であろうとスポーツであろうと取捨選択ができる。しかもそれをコピーできる。だから、自分の家でやがては新聞というものが手に入る時代になるわけですよ。そういう時代になりますと、いまのように新聞販売店が競争をしておるとするならば、あるいはまた新聞販売店に競争させるような営業政策を新聞社の販売局がやっておるとするならば、これは自滅行為につながることは間違いはないと思うのです。新聞はやはり新聞の社説で、あるいは新聞社のイデオロギーで、あるいは新聞社の持つ性格で読者に購入を求める、こういう時代が来ておるので、それを忘れる限り、せっかく世界に誇るべき新聞をつくっても私はだめだと思うので、これはとりあえずは通産省の指導と、公取は過当競争防止の協議会をつくれということを言い、新聞社の間でも過当競争防止の協議会をつくっておるわけでありますから、これを徹底的に私はやっていく以外に解決はないと思うのです。

そういう意味で、公取から今後の指導についていま一度決意をお聞かせ願いたいと思います。

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説明員(公正取引委員会事務局取引部取引課長) 植木邦之
先ほどもお答えいたしましたが、私どもといたしましては、新聞協会と申しますか新聞協会の中にあります新聞の公正取引協議会に抜本的な対策を講ずるようにということを申し入れておりまして、さらに個々の違反行為があれば取り締まる。

それから、増減管理センターはきちんとやっていただきたいということで再三再四要望しておりまして、その線に沿ってやっていく所存でございます。